盗作問題

東京五輪のエンブレム問題で盗作を疑われ、その後、サントリーのノベルティ商品でバッグのデザインについても著作権侵害として指摘を受けている佐野研二郎氏。なんと新たな盗作疑惑が急浮上、しかも、まさかのビレリ・ラグレーン登場で僕としてはかなり衝撃です。


http://nikkan-gendai.com/articles/view/news/162771

ビレリは、僕が敬愛するジャズギタリストの1人で、ジプシースウィングジャズのジャンゴ・ラインハルトの再来と謳われた速弾き系天才ギタリストです。僕は彼の初期のアルバムはあまり知らないのだが、記事内に転載されているアルバム『Bireli Swing ’81』のJK写は、確かに件のTシャツデザインと酷似している印象ですね。


※これはまた別のジャケですね

「盗作かどうか」を判別するには類似性と依拠性のふたつが立証されないとならないわけですが、類似性は誰の目にも明らかで間違いないと思われるその一方で、JK写のほうが若かりし頃のビレリ少年の写真。対するTシャツのほうは1色べた塗りのイラストになっているという点ではひょっとすると意見が分かれるところかもしれませんね。あとは依拠性ですがイギリスのロックバンドのコラボTシャツのタグにあたる部分にフランス感を醸し出したかったのでしょうか。ストーンズがマカフェリ(ジプシースウィングやる人がよく手にしているギターのタイプ)っていう時点で、これは音楽好きならば誰の目にも明らかに『変』と言わざるを得ません。ところがニュース記事中には弁護士さんのとんちんかんなコメントがいろいろ記載されているのです。

「法律的にいえば、他人の著作物を使い、周囲に文字などを施すことを『複製』と呼び、著作者の許可が必要です。勝手に逆版にする場合は同一性保持権を侵害する恐れもある。もちろん佐野氏がラグレーン氏の許可を得て写真を使ったのなら問題ありません」

弁護士さんが間違えたのか、ライターさんが聞き間違えたのか、はたまた、わかりやすくしようとリライトしたら仇になったのかわからないけれど大いに間違っている。

まず、他人の著作物を使って周囲に文字などを施すことを利用と表現することはあっても複製とは言わないであろうこと。部分的な複写とも言えるため、広義では複製と表現することもできなくはない思うが、はっきり言えば未許諾の二次利用でしょう? また、蛇足的ながら本件の許諾元はビレリではなくレコードの原盤権を保持しているであろうフランスのレーベルになります。なぜこのような認識違いが発生しているかと想像してみるにCDやレコード、下手をすると装丁を必要とするパッケージビジネスの仕組みが、世の中に全く理解がされていないことが原因かもしれませんね。

いずれにしても、JK写の著作権は写真家とデザイナーにあってビレリにはないはず(ビレリがデザインをしたならば話は別だが)。ちなみに、仮にビレリの許可をとっていたとしても肖像権がクリアできた程度の話で、JK写の二次利用の許諾を受けたことにはなりません。

なお、最後に同一性保持権についてですが、これは「著作物の内容と題号について同一性が保持されているべきだ」としたものであり、これらがよく議論されるのはフォトモンタージュや替え歌などにあたります。ビレリが保有する著作権は楽曲(もっと言うと件のアルバムでは演奏に関する部分)であり、Tシャツにあしらわれたビレリ少年のイラストが彼の演奏や楽曲を侵害したかと言えば? 本人がそのように訴えたならば別ですがこれもどちらかというと著作権よりは肖像権寄りの話ですね。まぁ、このような細かな話は置いておくとしても……。

こういうのって、ただただモラルと盲目的ブランド信仰の問題だと思ってしまうんですよ。僕の頭の中では、どうしても2013年の阪急阪神ホテルズに端を発した食品偽装問題とリンクしてしまう。

例えば発注側はローリングストーンズの意匠をあしらったというTシャツのデザインとして仕上がってきたこれを「いいね!」なんて言っちゃったわけでしょう? もしくは担当者の酔狂で「こういうの作ってよ」とか言って強引にし作らせちゃったみたいな。どちらにしたってブランド信仰ですよね。バナメイエビだと気づくことなく、有り難そうに芝海老を平らげるのです。
納品側も納品側で「どうせ、わかりゃあしないからさぁ」なんて言いながら、ホンビノス貝を『蛤です(キリッ』と偽って提供するわけです。これ、意図してやっているならばまだしも、もしも「担当者に無理強いされたものでそれを収めた」なんて話だったりしたらば、これはこれで余計にタチが悪い。プロとしての意識が大いにかけてると感じるし、お金によって主従関係を握られ対等ではないことを指すのですからね。

消費者だってどうかと思うわけですよ(このTシャツが販売物であるかどうか私はわかりませんが)。もしも『ストーンズファン』を公言するような人がこのデザイン見て自らの意志で以って購入したのだとしたら、私はその人のことを少々疑っちゃうかもしれませんね。深い考察なしに「なんとなく良い」程度で買えちゃう人なんだから、こんな人には仕事だってまったく任せられないですよ。とか思ったんだけど、記事中の写真を見てるとプリンティングタグの部分だけなのかな? まあそうだとしても少々の違和感はあるよね。

とはいえとはいえ、予算も時間も不十分ななか100点満点を求められる社会ですからねぇ。事の本質は、のんびり迷っていられる余裕なんかない社会にあるのかな、なんて思ったりもしますが。

しっかし、よくこんなデザインで提出したよな〜、あんた勇者だな、ってのが僕の所感です。それとも今回の場合「フランスのジャズミュージシャンなら関係性もないだろうし言葉も通じないだろうから大丈夫」だとでも思ったんでしょうか?  とりあえず、いろんな面から見ても本当、次の一言に集約できます。繰り返しになるけれど、よくこんなデザインで世の中に出せた(受け入れられた)もんだな。

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